「KURASERU(クラセル)」がプレシリーズAラウンドの 1.3億円の資金調達を実施!
神戸スタートアップ・エコシステムにも弾み
2019.04.18
株式会社KURASERU代表取締役社長川原 大樹 氏
介護施設マッチングサービスの企画・開発・運営を行う株式会社KURASERU。創業者の川原氏と平山氏は、「KGSG(神戸グローバル・スタートアップ・ゲートウェイ)」の5期卒業生で、昨年6月よりサービスを限定的にローンチ。そしてこの度、総額約1.3億円の資金調達を果たした。ビッグビジネスへの布石ともいうべきこの資金調達と今後について川原氏にお話を伺うとともに、個人投資家として同社事業にコミットする山下氏に、KURASERUへの思いやスタートアップのエキスパートとしての考えをお聞きした。
ネイティブアプリなくして利用はないという現実に
早期開発を目指して資金調達へ。
KURASERUが提供するサービスは、退院後の在宅療養が困難な入院患者と介護施設をマッチングし、医療ソーシャルワーカーの退院調整にかかる業務負担の軽減を支援しようというもの。ITの活用により双方の情報を統合し、タブレットなど手元の端末上でマッチングを一元的に完結。電話やFAXで1件ずつ施設の空き状況を確認し、諸条件の合う入所先を選定するという従来の作業を解消する。
同社の今回の資金調達は、神戸市内で限定的にローンチしていたサービスでのユーザーの声が引き金となった。それは、当初採用していたWebブラウザによるマッチングでは、わざわざパソコンを立ち上げてブラウザでログインしなければ通知を見ることができず、結局、電話やFAXでやりとりする方が早いということ。また、患者との面談時に使用できないことへの不満も大きかった。そこでネイティブアプリ、すなわち端末にインストールしてOSで直接動作し、タブレット端末で持ち運びしながら使えるアプリケーションの開発を急ぎ、川原氏はそのための資金調達に奔走。昨年6月に同社にシード投資を行った500 Startups Japanによるフォローも受けながらVC(ベンチャーキャピタル)にアプローチした。
「ただ投資をお願いするのではなく、事業シナジーがあるかどうかを重要視しました」。
個人投資家の2人に求めたのは
スタートアップに不可欠な知恵とメンタル。
その結果が、DBJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、500Startups Japan、個人投資家2人から総額約1.3憶円の資金調達となった。この中で目を引くのが個人投資家である山下氏と尾下氏の存在。ともにKGSGでKURASERUのメンター(指導者、助言者)を務め、プログラムの期間終了後も川原氏はアドバイスを仰ぎ、両氏も気軽に応えるという間柄。
「山下さんはNTT docomo時代にiモードの技術・サービス開発を担当、さらにスマホへの移行を牽引された、まさにイノベーションのエキスパート。国内外の多数のスタートアップと協業された経験をお持ちです。事業戦略だけでなく、企業文化のあり方までご相談するなど、メンタルの支えにもなっていただいています。一方、尾下さんは会社を経営されており、マーケティングにすごく強い方で戦略面でのアドバイスは欠かせません。そこで、どうしても両氏にビジネスパートナーとしてお知恵をお借りしたく、最初は顧問契約でお願いしようとしました。ところが山下さんから、『スタートアップではそこにお金を使うのではなく、逆に僕が出してチームとしてジョインするのが正しいやり方だ』と提言され、既存投資家の承諾を得て出資していただきました」。
KURASERUでは資金調達の目途が立った時点で、さっそくネイティブアプリの開発に着手。スピード重視で多数のエンジニアを動員し、わずか1か月半で完成させた。このアプリの最大の特長は、即時性はもとより、現場視点での使いやすさにある。退院する患者にとって最適な介護施設の検索、空き状況の確認から募集まで、タブレットなどの端末上で瞬時に行え、施設側からも入所可能メッセージなどを送信することができる。これらの機能により、ソーシャルワーカーは患者と話している間に介護施設からの通知を受け取ったり、タブレットを片手に移動しながらでも患者の退院支援を行うことが可能で、電話確認によるミスコールを徹底して解消できる。収益は入居が決まった際の施設からのショット(手数料)や閲覧による課金を想定している。
「私は介護施設と病院の両方で実務経験があるため、オペレーションは全てにわたって理解しており、何をどこに対して作ればいいかわかります。投資家の皆様には、そこを一番に買っていただけたのだと思います」。
時代を確かに先取りしたビジネスを構築
現在、KURASERUは神戸市北区で実証実験を行っている。病院の協力を得るのは通常は困難だが、川原氏の熱心なロビイングにより9病院で実験が進行中。
「病院に対しては、やはり神戸市さんのバックアップと銀行系のVCの力が大きかったですね」。
実験ではネイティブアプリを実践投入し、現場のフィードバックをもとに改良を実施。その後、完成したタブレット版を神戸市内に広げていく予定だ。
また、KURASERUでは調達した資金を元にタブレットを多数購入し、病院への無料貸与に備えている。まずは現場にタブレットを浸透させ、実務での必須ツールにしてもらうことで次の展開へと進もうというのだ。それはメール、カレンダー、ドキュメントなどを統合するG Suiteのようなイメージ。いくつかのアプリによるグループウェアを形成し、医療介護の連携を担おうというもの。
「サービスイン時には現場でタブレットがガンガンに使われている状態にしたい。いくつものアプリで毎日なにかしらKURASERUが活用されるような状況をフューチャープランに据えており、そのためのアプリ開発にすでに取り組んでいます」。
2025年、わが国の人口構成は75歳以上が4人に1人にのぼる。家族を入れるとほとんどの人が高齢者問題に向き合うことになり、KURASERUはより身近な存在になりえる。国も診療報酬や介護報酬をクラウドサービスに切り替えようという動きがあり、KURASERUの活用による点数加算で病院の収益増が見込まれる。そして10年後、15年後、川原氏はTo C(対一般消費者)による収益の爆発を思い描く。
「医療や介護との連携が日常で必要になり、個人単位でKURASERUが活用される時代がやって来ます。それをなじませる作業こそがわれわれの事業。未来は不確かなものです。そんな不確実性さえも楽しんで進んでいけるチームがKURASERUです。その先には必ず明るい未来があるし、その輪が医療介護従事者にも伝わると信じています。当社、投資家のお二人、VC、そして神戸市さんは最強チームと自信を持っており、さらに果敢にチャレンジしていきます」。
現場のペインを熟知するKURASERUへの期待と
神戸の投資環境づくりへの課題
私がKURASERUに投資したのは、純粋に応援したかったからです。KGSGで川原さんのお話をお聞きした頃、実際に私の家族も介護問題に直面し、現代とは思えない超アナログな世界に驚きました。そこで医療介護問題の大きさと重要性を実感し、日本全体の話として応援したいと考えたわけです。
アメリカのスタートアップ成功の最大の条件は、ファウンダー・マーケットフィットだとされています。創業者が実際のペインを知っているからこそ、我がこととして全体のマネージメントやディレクションができるということ。その点、川原さんは実際に現場を経験してペインを知っており、創業者が最も経験を有するチームであることを高く評価しました。
神戸市に目を向けると、起業されたスタートアップは順調に伸びてきています。一般的に9割は失敗すると言われる中、半数以上が着実に事業成長できています。スタートアップの芽が伸びていることに自信を持っていいし、私も実感を得ています。ただ、投資環境がもっと整わなくては。川原さんも経験されたように、VCに売り込むためには東京に行かないといけない。それを何とかするための仕掛けをつくっていけたらと思います。
また、神戸周辺は大学や高等教育機関が集中していますが、せっかく学んでも東京などに出て行ってしまう。最近、東大生の中に起業をめざしたり、創業期の企業で挑戦しようという動きが高まりつつあるようですが、神戸でもそんなチャレンジ環境を見つけて踏み込んでいけるムーブメントができれば。神戸で起業した会社が最初に苦しむのは人材ですが、そこに流れをつくっていけると、神戸のスタートアップ・エコシステムはパワーアップするでしょう。
<株式会社KURASERU>
設立 2017年10月
事業内容 介護が必要な方と介護施設のマッチングサービスの提供
所在地
■本社/〒650-0033 兵庫県神戸市東灘区向洋町中6-9 神戸ファッションマート8F